犯人顔

半年ぶりに髪を切った。今年初めてヒゲを剃った。

物持ちがいい方なので、いま乗ってる自転車とも15年近くの付き合いとなります。元々が安物だったからアチコチに錆が出てるし、ライトもいつの間にか点かなくなっている。
数年前に施錠した状態で鍵を紛失し、仕方がないのでニッパーで鍵をぶった切ってるから現在は鍵も掛からない。

そんな自転車で買い物に出かけるとかなりの確率で警察官に止められる。多いときは月に5~6回。

「すいません、鍵が付いてないようですがどうされました?」

警察官は遙か遠くからでもオイラの自転車に鍵がないことを見とがめる。それが仕事とはいえ大したもんである。

『前に紛失して以来ずっとこの状態なんですよ』

もちろん正直な返答をしたつもりである。

「そうですか、申し訳ありませんが防犯登録だけ確認させてもらっていいですかね?」

自転車盗難の多い地域である、疑われても仕方がない。もちろん拒む理由もないので『構いませんよ』と応ずる。

ものの数分で疑いは晴れる。

「お急ぎのところスイマセンでした、また止められちゃいますから鍵は付けてくださいね」

とまぁ、警察に止められるといってもこの程度だったんですよ。

ところが今年に入ったくらいからでしょうかね、この程度じゃ済まなくなってきた。
防犯登録の確認が済んだところで更に突っ込んだことを聞かれたり調べられたり。

「これからどこへ?」

「お仕事はお休みですか?」

「どんなお仕事を?」

ほっとけ!ってな話である。サラリーマンじゃないから全部答えにくい質問だ。

例えば

『自営業です』

と答えても

「ほほぉ、じゃお店を経営してるとか?」

具体的な職種まで聞かないと気が済まないらしい。
そしてオイラの現在の職業は非常に説明しにくい職業でもある。だから困ってしまう。

これだけならまだいい。
先月くらいからでしょうか、所持品まで検めようとしてきやがる。

「すいませんけどバッグの中を見せて貰えますか?」

「外からポケットの中を調べさせてください」

挙げ句の果てには

「財布の中を見せていただけますか?」

ときたもんだ。

何を疑ってるんだ?オイラがなんかしたのか?

ポケットには常にピルケースが入ってまして、警察官は必ずこれに興味を示す。

「この容器はなんです?」

『ピルケースですよ、薬が入ってます』

「中身を見せていただけますか?」

これはプライバシーの侵害じゃないか?
もしオイラが人には言えない持病を抱えてたとして、その薬が入っていたらどうする?
オイラは男だからいいが、女性だったらセクハラだろう。

やましいことなんか無いので『どうぞ』とケースを開いて手渡す。
警察官はすぐに返してくれる。

当然だ、中身は普通のガスター10とパンシロンだもの。
オイラは胃の弱そうな顔してるだろうに。何分も向かい合って話してるのに、自転車盗難は疑っても胃弱は疑わんのか?馬鹿たれが!

我ながら理不尽なキレ方をするもんだ。
まぁいい。

どうやら髪とヒゲが伸びるほどに警察官の疑いが増すんじゃないか?確かに現在のオイラの容姿は一般社会人のそれではない。どちらかというとホームレスや浮浪者のそれである。だから頻繁に止められ、職務質問やら所持品検査までさせられるんじゃ無かろうか。
そうか髪やヒゲを伸ばすと犯人顔になるんだね、オイラって。

そんな結論に至った。

半年ぶりに髪を切った。今年初めてヒゲを剃った。
ついでに自転車にも鍵を取り付けた。

首から上がスースーしておかしな感じだ。
だけどスッキリした。サッパリした。

春らしい天気に恵まれた日曜の昼下がり、自転車に乗って本屋に向かっていると後ろから警察官が追いかけてきた。

「すいません、ちょっといいですか?」

・・・・・・。

よくねーよ!

これ以上どうしろってんだよ!馬鹿!!!

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