あれは何年前かな・・・、もう10年以上前になるのか?!
当時住んでいた適度に都会で適度に田舎な町でのこと。オイラは国道沿いに建つ会社の寮で暮らしていました。
国道沿いと言ってもそこは田舎町、道路沿いには商店や住宅が建ち並んでいますが、そのすぐ背後には一面の田んぼが広がっていました。
寮の3件隣にはコンビニがあって、反対隣には大きなパチンコ屋、数十メートル離れたところにはレンタルビデオ屋もある。そうしたお店を便利に利用しつつも、自室のベランダからは一面の田んぼと背後に広がる雑木林が見渡せる。
5月の連休を過ぎると、水が張られた田んぼの上を吹き渡ってくる風がなんとも心地よくて、この環境がオイラは大好きでした。
とある8月のある日。いつものように日勤を終えたオイラはコンビニで夕食を買い自室に戻りました。数十分前まで激しい夕立が降っていたのでベランダにはびしょ濡れの洗濯物が干しっぱなしになっていました。
空腹を堪えてベランダに出てみると、遠く見える田んぼのあぜ道でいくつものボンヤリとした光が蠢いている。
暴れ回った入道雲は姿を消して、上空にはどんよりとした雲が所々に隙間を空けて広がっている、その隙間からは暮れかけたオレンジ色の太陽の光が差し込み、天孫降臨とはこれに!といった雰囲気でした。
その幻想的というか不気味というか、変な雰囲気の中をいくつかの光が固まって同一方向にゆっくりと動いている。目には捕らえられるが実際に存在するのは遙か先、正体を確認できる距離ではない。
暫くのあいだ取り憑かれたように見ていたんですが、そのうち段々と怖くなってきた。見てはいけないものを見ているんじゃ無かろうか?存在してはいけないものを見ているのでは無かろうか?
宵闇迫る田んぼのあぜ道で無数の明かりが動いている様を見ていたら、ガキの頃に読んだ「狐の嫁入り」を思い出した。
「そうか!これが狐の嫁入りか!」
本当に怖くなったのか、はたまた空腹が限界に達したのか覚えていませんが、オイラはベランダから部屋へと入りました。
翌日のこと、職場でこのことを話してみると、地元に住む同僚が教えてくれました。オイラが見た不思議な光景は、お盆の提灯行列だったようです。オイラが見たのは地元の町内会の子供が提灯を持って練り歩くという素朴で一般的なものですが、近隣の地域によっては大人が一晩中酒を飲みながら歩き回るなんてこともするらしい。
はぁ、提灯行列かぁ、オイラがガキの頃は普通に見ることが出来たよなー。夏の夕方に子供が集まって提灯をぶら下げ、「提灯行列よいやさっさー、お盆の提灯よいやさっさー」と唄いながら町内を歩いたっけ。お菓子が貰えて楽しかったなぁ。
東京では一足先に13日からお盆に入りました。雨が降る中を自転車でずぶ濡れになりながら檀家廻りをするお坊さん。路地の奥から聞こえてくる読経の響き。提灯行列は廃れてしまったけど、日本から仏教がなくならない限りこの初夏の風情は無くなる心配はないんだよね。
そうかぁ、お盆か。もうすぐ夏本番だねー。