夢で逢えたら

夢の中にかつて想いを寄せた女性が登場した。

何で今頃?何でこのタイミングで?
夢というのは本当に不思議なものですなぁ、すっかり忘れていた、既に顔も覚えていないような人が登場したりする。夢の中でも「確かこの人知ってる、誰だっけ?」なんて考えたりして。
何で今さらこの人が出てくるの?ってことがよくあるよね。

オイラは彼女のことが大好きでした。だけど想いを告げたことは一度もなかった。あれほど好きだったのに何でだろ?と今になって考えてみる。
勇気がなかった?自分に自信がなかった?・・・どれも正解だと思う、昔も今もオイラは変わっちゃいないよ。だけど一番の要因は彼女との距離だったんじゃないかと。

彼女とは同じ職場で働いていました。様々な年齢の従業員が混在する大所帯の職場の中で数少ない同年代の同僚として入社直後から仲が良く、メシを食いに行くときも休日に遊びに行くときもいつも彼女の姿があった。バイクの後ろに彼女を乗せて仕事帰りに家まで送っていくなんてこともあったっけ。
オイラの想いを告げるまでもなく、彼女はいつもオイラのそばにいたんですな。近すぎず遠すぎず、絶妙な距離感を保って何年もの間ずっとそばにいた。我が儘で束縛されることを嫌うオイラにはその距離感が心地よかったし、それ以上近づくことでいつか今以上に距離が開いてしまうことを恐れていた。同じ職場で毎日顔を合わせている安心感がオイラからその機会を奪ったのかもしれません。想いを告げても、結ばれたとしても、その後の結果によってはお互いに気まずい思いをしなければならなくなる。社規には無いものの同じ職場内での恋愛は暗黙の了解で禁止されている、発覚した場合はどちらかが他の部署に移動となる。

世間の男女のように休みの日や仕事が終わってからしか会えないなんて不満とは無縁で、仕事に行けばいつでも逢えるわけですし、休みが合わないなんてこともない。手さえ繋いだこともないしこの先も彼女に触れることすら出来ないかもしれん、だが毎日でも一緒にメシを食ったり酒を飲んだりできるんだからこれ以上ナニを望もう。そんな風に考え満足していたんだと思います。

だけどそれが永遠に続くわけはありませんで、何年か後にオイラは会社を辞めました。でもこれは好機だと思っていました。彼女との距離は既に今までのようにいかなくなっている、近づくことはあってもこれ以上広がることなんか無い、いまこそ想いを告げるんだと。

退社後の手続きや再就職先での用事がやっと片付いたある日、オイラは元の職場に向かいました。でもそこに彼女の姿はなかった。オイラが辞めてすぐに彼女も会社を辞めて実家に帰ってしまったと聞かされました。
住所も電話番号も知ってはいましたがオイラは連絡しなかった。なんでかは自分でもよく分からんのです。後悔している自分を今になっても認めたくないんです。

新しい職場で人間関係に疲れたオイラはそれから間もなくして東京を離れました。誰も知る人のいない、誰も頼る人のいない心機一転の地で孤独感と疎外感に苛まれたオイラの心の支えとなってくれたのは彼女でした。いや別に彼女に対してナニをしたわけでもないんです、ただ近況報告の手紙を書いて送っただけ。だけどその手紙の真意を見透かすかのように彼女は激励と叱咤の言葉を贈ってくれました。
誰もオイラを知らない、誰にも見向きもされない、何日も誰とも口をきかない、1人として話し相手がいない生活の中で、オイラの存在を知っていてくれる人がこの世にいるという事実を再認識させてくれる、誰よりもオイラという人間を理解してくれている彼女だけが心の支えでした。

数年後、東京に戻ってきたオイラは生きていくために必死でした。ナニを楽しむこともなくナニを生き甲斐にすることもなく、ただ毎日毎日必死に働き食いつないでいました。彼女のことを思い出してる余裕なんか全くなかった。ただただ必死だった。
今になって当時のことを思い出しても、どんよりとした曇り空の下、寒い、腹減った、辛い、疲れた・・・、そんなことしか浮かんでこない。
胃を悪くしたのもこの時期、喰えない身体になったのも、栄養不足から歯がボロボロになり、70キロ近くあった体重が激減し痩せ細ったのもこの時期。
自分以外のこと、いや自分自身のことですら喰う寝る以外の余計なことは考える余裕はありませんでした。

悲惨な生活から抜け出すために実家に戻ってきたオイラが目にしたのは、彼女からの結婚報告の手紙でした。一度読んだだけで封印してしまったのでどんな文面かは覚えていませんが、手紙の最後が「祝福してくれますか?」と疑問系で結んであったのだけはハッキリと覚えています。
返事は出せませんでした、祝福の言葉も贈れませんでした、オイラができることは彼女の幸せを願うことだけでした。

暫くして共通の知人と電話で話したときに「おまえはひどいヤツだ」と詰られました。彼女はずっと待っていたんだ、と。

夢の中の彼女はバスに乗ってオイラの前の座席に座っていました。
隣の座席ではなく前の座席。これがオイラと彼女との運命だったのかもしれません、近くに座っていても下りる停留所は別々だったのでしょう。隣に座っていれば同じ停留所で降りれたのでしょうか?

新年早々柄にもないことを書いてしまいました。でもこうして書いておけばいつかまた彼女が夢に出てきてくれるんじゃないかと思ってさ。

次こそ隣同士の席に座って。

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